“人生わずか五〇年”は八〇年に延びたが、平均寿命が一〇〇歳の大台に乗る日は、いまのところ予想できない。あらゆる生物は、種によっておおよその寿命が決まっていて、最長寿命を超えて生きる個体はない。寿命の限界までの話である。ヒ卜の限界寿命は一一〇歳とも一二〇歳とも言う。ヒ卜は必ず死ぬ。この哲学的命題は、宗教発生の土壌となり、古今東西の文学のテーマとなり、生命の謎探求の科学を育てた。

-ヒトはなぜ死ぬのか-この問には、個体が消滅し、遺伝子が引き継がれていくことは、種の保存に有利なのだ、という答がある。-ヒ卜はどのようにして死ぬのか-これは、かつてないスピードで、ロクな準備もなく高齢社会に突入する一二世紀の日本では、胸の痛む問いかけであり、尊厳死や介護体制などに具体的な答を出していかねばならない。-ヒトは何によって死ぬのか-それは、科学的には、なぜ老いるのかと同じカテゴリーの問いである。エージング(加齢〉により、体は変化する。成熟期より老年期への移行の段階では、その変化は退行の形で現れ、人々は己が老いと向き合うことになる。皮府や髪や体型、歩き方のように外見上に老化の印が刻まれるころには、体内部にも動脈硬化や臓器の萎縮が生じている。老化の解明は、多くの人々の心を捕らえる課題に違いなく、老化にかカわる仮説は十指に余るほど現れた。

そのアプローチは、個体レベルあり、細胞レベルあり、DNA(デオキシリボ核酸)レベルあり。その考え方も、老化のシナリオは遺伝子にプログラムされているとするもの、老廃物の蓄積によるとするもの、タンパク質や核酸合成でのエラー、あるいはDNA損傷と、その修復能力低下による異常の集積によるとするものなど、多彩である。それぞれに主張があり決着はつけがたい。また、それぞれが独立した因子ではなく、お互いに関連してもいるのである。しかし、それらの中でもっとも説得力に富むのが、ハーマンが提唱した「フリーラジカル説」である。原子の基本的構造である、電子の存在様式を思い出していただこう。電子は軌道上にのみ存在するが、一つの軌道には三個以上の電子が入ることは禁じられている。同一軌道にある電子のペアは、シングルになることを好まない。やむを得ず独身になった電子は、とくに不対電子とよばれ、白眼視される。なぜなら、彼らは暴力的に、平和な電子ペアの仲を裂くというラジカルな行動に出るからだ。

もともとは、不対電子を持つ原子や分子を遊離基、英語でフリーラジカルと言うのだが、実際には、酸化力の大きい酸素たちや、ラジカル候補生をも同類としている。酸化力の大きい酸素とは、すなわち活性酸素で、スーパーオキサイド、過酸化水素、ヒドロキシルラジカル、一重項酸素の四種がある。このうち、厳密に言えばスーパーオキサイドとヒドロキシルラジカルだけが、ラジカルの資格を持っている。

ラジカル候補生としては、オゾン、過酸化脂質、次亜塩素酸などがある。酸素を利用するテクニックを手中に進化した生物は、ラジカル酸素によるしっぺ返しに抵抗する手段を開発して、そのリスクを免れつつ生きているが、それが十分でないために、やがて老化して死ぬ。このストーリーは、体重当たりのエネルギー消費量や、酸素毒性抑制機構レベルの研究成果によって支持された。動物が一生かかって消費するエネルギー量を、体重当たり、一日当たりで計算すると、その数値が小さいほど寿命が長いことが知られ、その例として、ゾウとネズミが引き合いに出された本がある。好気性生物の酸素毒性抵抗戦術の第一は、活性酸素除去酵素である。スーパーオキサイドにはスーパーオキサイドディスムターゼ、略してSODが用意されている。先の例にならって、各動物種のSODの働きを調べた結果では、長寿の動物ほどSODの活性が高いことが分かった。SODには三種のものがあり、それぞれ銅と亜鉛を持つもの、マンガンを成分とするもの、鉄を用いるものがある。ヒトはこのうちの二種をつくって、所を選ばず出現するスーパーオキサイドを捕捉する。過酸化水素を標的とする酵素は、カタラーゼとグルタチオンペルオキシダーゼだ。SODとこれらの酵素とはリレー式に働くのが建て前で、それによって、過酸化水素はおとなしく水になってしまう。

活性酸素グループのうち、ヒドロキシルラジカルは、もっとも強力な酸化力の持ち主だが、生体はこれに対する捕捉酵素をつくるマニュアルを持っていない。最後の一重項酸素も同じ事情にある。

そこでものを言うのが、生体内に常在する抗酸化物質群である。これには、グルタチオンやセルロプラスミンや女性ホルモンといった生理物質が、二足のわらじを務める場合もあり、尿酸のように代謝産物を再利用する場合もある。また、いわゆる栄養素の多目的使用もしている。これにはビタミンA、ビタミンC、ビタミンEが高い評価を受け、これにビタミン恥も加わる。特筆すべきは、カロチノイド、フラボノイド、ポリフェノールなどの植物成分だ。具体的には、ニンジン、カボチャの色素、サケ肉や魚卵や卵黄の色素、茶類のタンニン、ゴマのセサモールなどが、生体の抗酸化勢力を支えて、栄養効果に並ぶ薬理効果を発揮する食品成分として、最近、とみに高い評価を受けるようになってきた。

老化因子としての活性酸素を含むラジカル群と、抗酸化勢力との綱引きは、日夜休むことなく続く。この点にスポットを当てるなら、生きることは緩慢な自殺行為なのである。生と死は盾のウラとオモテに違いない。

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